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リクルート進学総研では、大学や専門学校の経営層の皆さま向けに『カレッジマネジメント』を、進路担当教員・校長・教頭・副校長、クラス担任、保護者に向けて『キャリアガイダンス』を発行。

カレッジマネジメント

全国の大学、短大、専門学校など、高等教育機関の経営層向けに発行している高等教育の専門誌。
政策動向やマーケットの最新情報、高等教育機関の事例などをお届けしています。年4回発行

カレッジマネジメント Vol.245 Jul.-Sep.2025

学費改革の現在地 ― その負担と支援 ―

編集長・小林浩が語る 特集の見どころ


少子化時代の学費負担、3つの視点から考える

 昨年来、東京大学の授業料値上げを発端として、大学の学費が話題となっている。学費を考えるに当たって、大きく3つの視点から整理してみたい。
 1つは学費を「負担」する側の視点である。学費を負担する側の家庭の状況を見ると、名目賃金は上昇する一方、賃金上昇を上回る物価上昇が生じており、家庭の学費への負担感は高まっているようだ。

 大学進学率は約6割に達しており、これまで大学に行っていなかった層の大学進学者が増えていることも背景にあると思われる。本特集のリベルタス・コンサルティング 八田 誠氏のリポートから抜粋すると、夫婦と子ども二人、うち長子が大学生の世帯では消費支出のうち26.4%が教育関連支出(2019年全国家計構造調査)となっており、2022年度の独立行政法人日本学生支援機構(JASSO)の調査では、大学学部生(昼間部)の55%が奨学金を利用しているとのことである。その結果、2023年度の文部科学省の意識調査※1では、なんと6割が大学等の教育費が負担であり、少子化の要因となっていると回答している。

 2つ目の視点は学費を「決める」側の視点である。物価上昇は、当然家庭だけではなく、大学にも及んでいる。光熱費等の諸費用の高騰、設備施設の老朽化への対応、人件費の上昇等をどのように吸収するかは、経営上の大きな課題である。コスト増を吸収できなければ、教育・研究の質に影響が出てしまう。企業であれば、需要と供給のバランスや市場競争力によって商品・サービスの価格は決まってくる。しかし、大学は「公器」としての役割があるため、コスト増を直接学費に反映することが難しい。加えて、国等からの補助金を得ていること、国立・公立・私立といった設置者において事情が異なることから、学費の算定根拠が一般家庭から見ると分かりづらい点もやっかいだ。私立大学は学納金が収入の約8割を占めており、学費の決定は大きな課題である。

 そこで3つ目の視点、学費の「支援」である。この支援の拡充による学費負担の軽減が、昨今の新たな動向を把握するポイントとなりそうである。まず、国による支援として、高等教育へのアクセス強化を目的とする修学支援制度が導入され、対象が拡充されている。次に、大学独自の奨学金である。これは、学費自体は必要コストを吸収して上昇するものの、各大学の理念やビジョン・ミッションに合致した学生の獲得に向け、戦略的に給付型の奨学金を支給するような、「高授業料/高奨学金政策(桜美林大学 小林雅之特任教授)」が拡大していると考えられる。

 これに加えて、自治体や企業からの支援が増加している。少子化の流れの中で、若者の人口流出は地域の大きな課題だ。各自治体が奨学金等を設けるケースが増えてきている。また、少子化の中で、企業の人材確保も重要な課題となっている。2025年の大学卒の採用計画を充足できた企業は、全体の37%に留まっている※2。2021年より企業が従業員の奨学金を代理で返還する国の制度が始まったこともあり、2024年度には代理返済の導入企業は3266社に増え、支援対象者も1万人を超えたという(JASSO)。支援の輪は一つではなくなってきており、拡がりを見せている。

 2024年2月にまとめられた答申、『我が国の「知の総和」向上の未来像 ~高等教育システムの再構築~』では、高等教育のアクセス確保の方策として、「経済的支援の充実」を掲げている。また、高等教育改革を支える支援方策のあり方として、「公財政支援、社会からの投資等、個人・保護者負担について持続可能な発展に資するような規模・仕組みを確保する」とも記されている。その一方で、高等教育機関の必要コストの算出、明確化も打ち出している。人口減少が進む中で、一人ひとりの資質能力を高めていくことは、重要課題である。その中で、公器ともいえる大学の学費を誰が負担するのか、これから大きな議論になっていくことが想定される。既に、大学院修士課程や専門職学位課程では、在学中は授業料を納付せず、卒業後の所得等に応じて納付できるという授業料後払い制度が始まっている。

 様々な支援制度が導入され、経済的に厳しい状況にある学生が、進学できる制度が充実するのは大歓迎である。その一方で、前述の文科省の意識調査※1では、修学支援新制度の認知率はわずか15.1%に留まっているとのことだ。せっかく支援制度が拡充されても活用されなければ意味がない。分かりやすい制度設計を構築するとともに、対象となる学生や家庭にどのように浸透させていくかが、今後の重要な課題と言えるだろう。


  • 令和5年度文部科学省委託「高等教育の教育費負担等に関する調査研究」
  • リクルート就職みらい研究所「就職白書2025」

リクルート進学総研所長・リクルート『カレッジマネジメント』編集長 小林 浩

キャリアガイダンス

高校生の主体的な進路選択を応援する、進路担当教員・校長・教頭・副校長、クラス担任、保護者のための専門誌。
進路指導・キャリア教育に役立つ情報をお届けしています。年4回 (4・7・10・1月) 発行

キャリアガイダンスvol.455

キャリアガイダンス vol.455 2025.07 NEW

未来につながる失敗のすすめ

【Opening Message】失敗のその先へ × 岡田武史(FC今治 オーナー、FC今治高校 学園長)/失敗したから今がある 私の失敗談/失敗はしてもいい、学びの機会と捉えよう/「失敗」を「機会」と捉える組織/失敗や想定外を楽しめるように/失敗と向き合う高校事例

特集の見どころ

 

 「失敗は成功のもと」とは、よく言われる言葉です。確かに、失敗は人が成長する過程において欠かせない学びの源です。変化のスピードが加速し、将来が見通しづらい今の社会において、まだ経験の少ない高校生たちが壁にぶつかるのは避けられないことでもあります。だからこそ、つまずいたときに立ち上がり、前を向いて進む力を身につけてほしい――そう願う先生も多いのではないでしょうか。

 
 一方では、失敗は怖く、恥ずかしいと感じるのも自然な感情です。さらに、「何でも失敗すればいい」というわけでもなく、失敗をどう受け止めさせ、どこまでを許容するかに悩む先生も少なくありません。 この特集では、「失敗の本質とは何か」を改めて見つめ直し、生徒たちが未来へと歩む力を育むために、学校という場でどのように失敗の機会をつくっていけるのかを探ります。

クラス担任のための
キャリアガイダンス

最新号 vol.47 2024.4

クラス担任から高校生に提供したい情報をまとめました

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